多和圭三(1952―)は、ひたすら鉄を叩くという行為を通して周囲の要素を取り込み、 それらと息を合わせながら、鉄塊と向き合って、その表面にさまざまな表情を現出させます。
「刻む」「彫る」「形づくる」という彫刻の一般的な技法とは異なり、「叩く」 という手法で生み出された作品。それは、今までの彫刻と一線を画するものとして注目されてきました。ややもすると、視覚を優先させ形を重視し、あるいは概念的な造形に支配されがちであった従来の現代彫刻とは違って、多和の彫刻はあくまでも体に基 づき触覚性を回復させる力を持っています。
当初、鉄の圧倒的な質料に対抗して振り下 ろさ れてきたハンマーはその後、鉄といかに対話するかという課題を解決すべく模索し、多和の体を通して思考が紡がれてきました。
愛媛県越智郡大三島町(現在の今治市)生まれ。1971年上京、日本大学芸術学部に学ぶ。81年、真木画廊にて初個展を開催。以来、鉄を叩くことを通して制作を続けています。09年4月から、多摩美大教授。 本展は、代表作とともに、鉄を叩く以前の作品、野外展に参加した記録写真、ド ローイ ング、制作過程の音と映像をあわせて展示・上映することにより、多和の体を媒体 としていかなるものが顕れ、周囲と共鳴し、作品にしるされていったか、振り返って検証します。