絵画制作のための下描きとして,あるいは絵画技術の修練として,古来より絵画芸術の基本として重要視されてきたドローイング(素描)は,現代において,それ自体独立した表現手法として重要視され,多くの作家がそれぞれの手法でドローイングの可能性を追求しています。
このたびの展示では,パウル・クレー,金山明,柳幸典,奈良美智,会田誠,法貴信也ら11作家による,ドローイング作品もしくはドローイング的手法を用いた作品あわせて21点により,現代アートにおけるドローイング表現の深化と多様性をご紹介します。
近代を代表する画家の一人パウル・クレーは,簡潔で記号化された線表現により軽やかで詩情にみちた世界を生み出します。関西の前衛美術集団「具体」に参加した金山明は,おもちゃのリモコンカーにフェルトペンを取り付け,紙の上におびただしい線の連なりを記します。柳幸典は,紙の上を這うアリの後をペンで追いかけ,その移動の軌跡を作品として提示します。現代日本を代表する人気作家の奈良美智は,かわいい少女や動物などの姿に託して,その時々の自身の感情や思考をノートや封筒など身近なものに描きつづります。法貴信也は,画面に躍動的な線で奇妙な風景を描き,多視点的で遠近感があいまいな複雑な画面を作り出します。
近代美術におけるドローイングの名手・クレーと,現代日本の作家による多彩な線表現の魅力をお楽しみください。