二葉亭四迷(ふたばていしめい 本名・長谷川辰之助 1864~1909)は、 1887年(明治20)に小説「浮雲」の第1編を発表して、新時代の文学の旗手として一躍注目を集めます。しかしこの「浮雲」も未完のまま文壇を去って様々な職を転々とし、朝日新聞特派員として赴いたロシアから帰国する船中で45年の生涯を閉じました。残された創作は他に「其面影」「平凡」など僅かですが、「あひゞき」「めぐりあひ」などのロシア文学の翻訳も含め、その言文一致体の清新な日本語は後世に大きな影響を与え、近代文学の先駆者として高く評価されています。
評論家・中村光夫(1911~1988)は、1936年(昭和11)に「二葉亭四迷論」を発表以来、幾度か二葉亭論を試みたのち、 1958年刊行の評伝『二葉亭四迷伝』に長年の研究の成果を結実させました。その過程で収集された手記「落葉のはきよせ」、「茶筅髪」「平凡」草稿など150点余りの関係資料は、二葉亭研究に欠かすことのできない第一級のコレクションとなっています。
本展は、二葉亭の「失敗」の意味の究明を通じて日本近代文学の問題点を探った中村の視点に沿いながら、当館が収蔵する「中村光夫文庫」の二葉亭四迷関連資料を軸にその波乱に満ちた生涯をたどります。