日本における現代版画の中にあって、清宮質文(せいみやなおぶみ)は表現方法の特異さと、哀しいまでに叙情的な作品で知られています。
多種多様な版画が混在する中で、清宮がその表現に用いた木版画は私たちに最も身近な存在です。ただ、彼の手から生まれた木版画は、ほとんどが小さなものでありながら、私たちの想像を超えた深みと広がりをもっています。深い精神性を宿したそれらの作品は、静かな水面に遠い記憶を映し見たように平明で、私たち見るものの心に滲み入ります。
「版で描いた」とたとえたくなる清宮の作品は、木版画の特性を知りぬいた者でこそ、なしえた表現であったともいえるでしょう。
清宮は1991年(平成3年)に73歳で亡くなりましたが、生前から熱心な支持者に支えられていました。彼らもまた作家とその作品に似て静穏で、作品を手元に慈しみながら維持してきました。今回の展覧会は、岡山県内に住むこうしたコレクターの存在がきっかけとなり実現したものです。
このたびの展覧会では、西日本では眼にする機会の少なかった清宮質文の作品、木版画50余点にガラス絵、水彩、モノタイプなど約80点と周辺資料をご紹介し、その足跡をご覧いただきます。