渡辺豊重は、絵画、版画、彫刻のあいだを自由に往来し、楕円、雲型、星型などの明快なフォルムを彩やかな色彩で描き出したユーモアあふれる作品で知られています。
1931年 東京に生まれた渡辺豊重は、1950年代後半から難波田龍起(なんばたたつおき) や田中 岑(たかし)に師事し、1962年に最初の個展を開きました。1968年に第1回芸術生活公募コンクールで受賞したことをきっかけとして、個展やグループ展などで精力的に作品を発表していきます。1975年頃から10年ほど続いた〈ピクニック〉のシリーズが、〈スウィング〉や〈モクモク〉、〈ギザギザ〉のシリーズへと展開する中、風をはらんだかのような動きや、軽やかなリズムをもったさまざまなかたちが生みだされました。 オレンジや黄色の柔らかな光の中、かたちが無心にたわむれる近作では、栃木にアトリエを移してからの、日々の暮らしの中で触発されるいきいきとした生命のよろこびが感じられます。
2009年夏、渡辺は、これまでの赤や緑といった明るい色彩から一転し、黒と金、あるいは黒と銀という抑制された色彩の対比が心地よい緊張感と力強さを感じさせる《鬼Ⅰ》《鬼Ⅱ》を、そして秋には《鬼III》を発表しました。鬼は画家自身のさまざまな感情が凝縮されて生まれた社会への反発のかたちであり、生命力の激しさのかたちでもあります。
今回の個展では、〈鬼〉三部作の系譜にある、本展のための最新作、〈鬼〉約30点と関連ドローイングをあわせて展示することにより、作家の烈しい感情が仮託された〈鬼〉シリーズの展開を追いかけ、その全貌を明らかにします。また同時に絵画からかたちが抜け出してきたかのような彫刻小品もあわせて展示し、渡辺の多彩な仕事ぶりを紹介します。