水や酒などの液体を注ぐための器―水注。水注の典型的な形は、胴の上部に口が開き、胴の下部から細長い注ぎ口が伸び、その反対側に把手が付く、というものです。
高麗の王侯貴族は、この実用的な器にかぎりない魅力を感じていたようです。高麗王朝(918~1392)は貴族社会の時代であり、優雅な文化が花開き、器は塗金や銀器よりも翡色の青磁を珍重しました。水注も青磁を中心に数多く作られました。一方、高麗では仏教が栄え、そこでも水注を用いたことが高麗仏画や出土遺物からうかがえます。
中国から伝わった水注は、繁栄する仏教、また生活様式の変遷のなかで様々に形を変えながら、12世紀を中心として多彩な展開を遂げます。さらに高麗水注の色や形、文様の美しさは中国や日本でも好まれ、高級品として受容されました。それらを裏付けるかのように、中国では北京、日本では大阪や鎌倉の遺跡から高麗水注が発掘されています。
本展ではこうした高麗水注を、館蔵品を中心に約30点展示します。また高麗の絵画資料や遺跡資料のパネルを用いて、当時の貴族生活のなかで水注がどのように登場しているのかを紹介します。基本的な構造はそのままに、様々な形を見せながら今日に至るまで愛好されてきた水注。そのもっとも洗練された姿のひとつを、本展で楽しんでいただければと思います。