扇は、風を起こし涼をとる道具としてだけでなく、祭事や芸能・遊戯など、さまざまな場面で用いられてきました。弧を描いた形は、絵師にとっては制約であるとともに工夫のしがいのある画面であり、その小さな空間にはさまざまな世界が表現されています。折りたたむことで常に持ち運びができる扇は、最も身近な美術品のひとつと言えるでしょう。
大阪の豪商・鴻池家では、一説に数千本ともいわれる扇が蒐集されました。現在もそれらの多くが、大阪の鴻池合資会社資料室と東京の太田記念美術館に所蔵されています。おもに鴻池家11 代善右衞門幸方氏(1865~1931)が蒐集したといわれるこの一大コレクションは、浮世絵、江戸琳派、円山・四条派など、江戸時代後期を中心に、画壇を一望できる内容を誇っています。
本展は、2010 年の太田記念美術館開館30周年を記念し、鴻池合資会社のご協力をいただいて開催される展覧会です。鴻池コレクションの扇絵約300点が一堂に会するこの機会に、その多彩な世界をぜひお楽しみください。