「日本のプチファーブル」と呼ばれ、虫や植物、動物を精微に描き続けた細密画家・熊田千佳慕さん(くまだちかぼ・1911-2009)は、数えで99歳を迎えた昨年2009年8月13日、ご逝去されました。
熊田さんは横浜で生まれ、戦前はデザイナーとして活躍し、戦後は『ふしぎの国のアリス』や『みつばちマーヤの冒険』『オズの魔法つかい』などの絵本挿絵を手がけ、その細かな筆致と徹底したリアルな画法、美しい色彩による表現力が評判を呼び、絵本のみならず花や虫、動物などを描いた図鑑、ファンタジーのシリーズなどの作品を次々と生み出しました。70歳頃からは『ファーブル昆虫記』を描くことをライフワークとし、完成を目指して日々続けられました。花や虫、植物を愛し、「納得するまで描く」という信念のもと筆の穂先を使って昆虫の細かい毛や花の葉脈一本一本まで丁寧に描き続けた熊田さんの99年間は、現代社会で叫ばれる効率化や合理化とは対極にあり、逆に人々の感動や驚きを与えます。
本展では、『ファーブル昆虫記の虫たち』シリーズや絵本などの代表作原画をはじめ、初公開となる図鑑シリーズなど約200点を展示し、生きものたちの息づかいが伝わってくるような熊田さんの細密画の世界を紹介します。