ビデオカメラやコンピューターが日常のツールとなった今日、映像が広く多く人びとにとって身近なメディアとなり、その表現の多様化が進んでいます。
本展は、現代の映像環境を反映する2000年以降の作品のなかから、とりわけ映像(リフレクション)を通して、ふだんは見えない、気づかない、もしくは隠された「もうひとつの世界」をリフレクトする(反映する)映像作品を紹介します。出品作品は、国内外の新進気鋭作家から著名作家まで7名と2組による、日本の美術館では未発表の作品が中心です。
本展における「もうひとつの世界」とは、大きく2つに分かれています。ひとつは、マスメディアとは異なるオルタナティブな視点からとらえた都市や社会の一面で、「主流」よりも「周縁」を対象とした世界です。たとえば、ヴェルムカ&ラインカウフはベルリンの地下鉄システムを綿密に調べあげて繰り広げた大胆なパフォーマンスの記録映像で、公共システムのスキや矛盾を照らし出します。また、藤井光は、社会的にないがしろにされている人びとがビデオカメラをもつことで得る可能性と、またそれによって浮かび上がる問題を新作で取り上げます。
これらが外に開かれたビデオカメラの活用であるなら、ふたつめの「もうひとつの世界」とは、ひとの心や脳など内面でのみ像を結ぶイメージや世界観です。たとえば、宇川直宏の映像インスタレーションは、音と連動して明滅する特殊なメガネを通して、見る人の脳内に恍惚的な映像体験をよびおこします。さらに、さわひらきのマルチチャンネル映像インスタレーション新作は、特異なアングルで捉えた実写映像とその断片的なコラージュによって、現実と夢を跨ぐようなシュールリアリスティックな世界を具現化します。
スタイルやテーマはさまざまですが、本展の出品作品はいずれも映像を「見えないもの/隠されたものを可視化するメディア」として用いた表現です。社会的に隠された出来事や注視されない人びとをビデオカメラによって照らし出し、あるいは目ではとらえられない心象風景や世界観をビジュアル化することで、私たちを刺激的かつ瞑想的な思索(リフレクション)する―多様なるリフレクションの場を紡ぎだそうとするものです。