「鍋島」は、江戸時代に鍋島藩から徳川将軍や諸大名への贈り物として作られた最高級の磁器です。そもそも徳川将軍へ献上する中国磁器に代わる染付磁器を創り出すために始まった鍋島藩窯は、またたく間に中国磁器をもしのぐほど質の高いうつわを生産するようになりました。贈り主である鍋島藩の威信と、贈られた人々の高い美意識が、「鍋島」の誇り高きデザインを生み出したのだとも言えるでしょう。澄んだ青むらさき色の染付を基本として、赤、緑、黄の色絵がおりなす繊細で格調高い世界は、時代を超え、老若男女を問わずつねに多くの人々を魅了してきました。
堂々とした四季花鳥の背後に、こまやかな紗綾形(さやがた)や青海波(せいがいは)の小紋を組みあわせた皿は、近世磁器の精華ともいうべき鍋島の地位をまさに象徴する作品です。また、桃・宝づくしなどの吉祥柄や、ときには壺・糸巻・組みひも・本・水車・ウサギまでも洗練されたモチーフに仕立ててしまう「鍋島」のデザイン力は、明快かつ斬新な感性にあふれており、現代の私たちの眼をも大いに楽しませてくれます。
江戸時代を通じて200年あまり続いた鍋島藩窯は、明治4年(1871)に廃止されますが、藩窯の職人達はその後も「鍋島」の技を日本の伝統工芸として後世に伝えるべく努力をかさね、現在もなお多くの人々に愛されるデザインへと進化しつづけています。
本展は、5件の重要文化財を含む約130件の貴重な鍋島作品によって、「技」「色」「構図」「モチーフ」の側面からデザインの魅力をご紹介していきます。また、現代における「色鍋島」の名門・14代今泉今右衛門氏の作品も登場します。正統ながらも新しく、上品ながらも分かりやすい。この夏、展示室でお気に入りの一枚に出会ってくださることを願ってやみません。