この企画展は、鹿児島市立美術館の所蔵品から、物故作家を含む鹿児島にゆかりある作家の主に現代に発表された人物を主題とする油彩画18点の大作を展示するものです。
造形ということばが、その本質的な意味において美術ということばに代わって使われるようになり久しいものです。無論、油彩画も造形作品であり、感性や技術を駆使してキャンパスという平面上の空間に一つの造形作品を生み出す芸術活動に他なりません。
作者たちは画面の人物以外の部分も「空間」と呼び、人物を描くことによって新たに生じたその空間をどのように処理するか、絵入りに研ぎ澄ました自らの感覚だけを頼りに挑んでいくといいます。
彼らにとって、キャンバス上の人物と空間は造形的に全く同一の意義を持つものであり、鑑賞する側の人間は、描かれた人物のみならず、画面上のすべてを包括している造形性にも着目しなければなりません。
これは、そのような見方をすることにより、作者の心の奥底にひそんだ真の造形的な意図に触れることができ、ひいては知らず知らずのうちに作品の持つ深遠な魅力を肌で感じ取ることにつながるからです。
彼らは、画面全体を一つのオーケストラに見立て、わずかな不協和音も見逃すまいと視覚というアンテナを張り巡らし、絵筆という指揮棒を振ります。こうやって生まれた作品には、作者の表現意図と技術的・技法的な考え方があいまって見事な造形美が備わるものです。
ぜひこの機会に、一つ一つの画面に描かれた空間に着目していただき、人物を主題にした造形作品の深遠な魅力をご堪能ください。