たとえば中世の写本や祈祷書。あるいは19世紀末、アーツ・アンド・クラフツ運動の中から生まれた、いわゆるブック・ビューティフルの数々。さらにピカソやマティスなど、近代の巨匠の手になるリーブル・ダルティスト。古今東西、美しい挿絵や凝った装丁の本、豪華な造りの様々な本が作られてきました。現代においてもアーティストたちの多くが美しい本を造り、あるいは本をテーマにして作品を制作しています。しかしそのような本のあるものは、しばしば私たちの常識を超えた「本」の作品となっています。一例を挙げれば、知識や物語の容れ物としての本が、文字通り「箱」や「トランク」になってしまったもの。突飛とも言える様々な加工が加えられた「本」。異質の素材によって、異質の相貌を示す「本」。焼かれた「本」等々。アーティストたちは、なぜ「本」に惹きつけられるのでしょうか。そしてまた、なぜ「本」の通念を逸脱してゆくのでしょうか。そこに現代のメディアの多様化と可能性を見ることができるかもしれません。同時に現代アートが、技法や素材をはじめ様々に脱領域化してゆく傾向を指摘することもできるでしょう。しかしそれでもなお、本がその形態や概念を拡張し、時には機能を剥ぎ取られた1個の「オブジェ」に変容するのはなぜでしょうか。そこにはメディアの多様化やアートの脱領域化傾向だけにとどまらない、目には見えない、しかしそれだけに一層根源的な何かがあるのかもしれません。
本展では、アーティストたちを、そして私たちをも惹きつけて止まない「本」の魅力とその広がりの一端を、現在1000点を超えている当館のコレクションをもとに、未来派から現代の若手作家の「本」を通して紹介します。