「古池や蛙飛び込む水の音」の句で有名な俳聖、松尾芭蕉(1644~94)は、その生涯の内に、句を記した懐紙や短冊、弟子たちに宛てた仮名の書状など、江戸時代の俳人としては突出した水準の、美しい仮名書跡を残しています。
6年前に開催した展覧会では、芭蕉の俳人としての生涯を、俳風の変化に沿って三つに分け、俳諧の発展につれて三段階に変化した仮名の書風の変遷を辿ったことが分かり易いとご好評を得ました。
本展は、この三段階の変遷を基礎にしながら、特に、芭蕉の真跡仮名の内でも最も優雅で美しいといわれる、第2期の作品群を集めることに力を注いだ展示構成にしております。加えて、充実した筆力に支えられた様々な書風の書状もご覧いただけます。
そして、各々に優れた三つの書風の仮名や、様々な書風の書状を書くことを、芭蕉に可能にしたものは何であったのか、同時代の書家や、先行する連歌師、同時代の俳人の書跡作品との比較を通して、芭蕉の仮名の魅力の謎を探ります。
本展は、この趣旨にそって、「出光コレクション」の中から厳選した芭蕉の真跡26件に、第2期の芭蕉の仮名作品の宝庫である山形県内の各御所蔵先、早稲田大学図書館、大垣市立図書館などから拝借した、芭蕉の真跡、関連作品を加え、50余件の作品で構成いたします。