人体のあらゆる部位の中で、顔だけは特別な存在だ。壁に刺さっている3箇の画鋲を見ただけで、ある種の顔を連想してしまう。粗野な網点印刷からでも、顔の個体的な特徴を読み取ることができる。誰と誰が似ているなんてすぐに想像できる。脳の内部には、顔だけに反応する特別な細胞野が存在するのではと思われるほどだ。 このところ、僕はずっと顔の写真を撮りたいと思い続けてきた。どんな顔写真に興味があるかというと、まず「決定的瞬間」から自由であり、ドラマティックな表情よりもっと大切なものがあると思わせる写真、そして何よりも心惹かれるのは、撮ってみなければ結果がわからない、論理的に計算できるものをはるかに凌駕する顔の写真だ。 現在ただいまのこのリアリズム、新しい必然に立ち会いたいと願っている。 十文字 美信