本展は、20世紀ドイツ美術の第一人者、ヨーゼフ・ボイス(1921~1986)の作品や活動を、日本との関係を通して読み解く展覧会です。
1921年にドイツのクレーフェルトで生まれたボイスは、第二次世界大戦にナチスの通信兵として従軍しますが、クリミア半島を飛行中に撃墜され、現地の遊牧民であるタタール人に命を救われます。戦後ボイスはデュッセルドルフの芸術アカデミーで彫刻を学び、芸術家として活動を開始しました。
1960年代前半には、ジョージ・マチューナスが設立した、フルクサスの活動にナム・ジュン・パイクらと共に参加し、アクション(パフォーマンス)の発表を開始します。全世界的にガクセ運動が活動化した1960年代後半、ボイスも「ドイツ学生党」を結成し、自分が教授として所属する芸術アカデミーの学生定員制度に反対し、教育の機会均等の権利を求めて大学当局と対立するようになります。
1970年第二は「国民投票による直接民主主義のための機構」や「創造と学際的研究のための自由国際大学」を設立したり、エコロジー運動とつながりがある「緑の党」に立候補するなど、従来の芸術家の範疇を超えた活動を続々と開始しました。
こうした活動は、芸術とは絵画や彫刻といった「モノ」を作ることだけではなく、たとえ日常的な行為でも創造性をもって主体的に行えば芸術となる、という「拡大あれた芸術概念」や、社会とは人々が創造性をもって造形してゆくものだ、という「社会彫刻」といったボイスの思想を背景としています。
ボイスは、1984年に来日し、8日間という短い時間の中で、展覧会、パフォーマンス、学生との対話集会、レクチャーなど、さまざまなボイスの芸術活動を展開し、日本のアート界に賛否両論を巻き起こしました。本展では、このたび25年ぶりに発見された来日当時に制作されたドキュメンタリーの未公開映像のほか、250点以上のマルティプル作品、ボイスの足跡を示す展覧会やパフォーマンスのポスター、来日時に交流があった日本人評論家やアーティストのヴィデオインタビューなど、貴重な作品や資料が公開されます。
また、国際シンポジウムやパフォーマンス、トークなどの関連企画で、ボイスのメッセージを多角的に検証します。