近代陶芸史に大きな足跡を残した川喜田半泥子(本名・久(きゅう)太夫(だゆう)政令(まさのり)1878-1963)は、三重県津市の素封家で、東京・大伝馬町に寛永年間から続く木綿問屋の家に生まれました。家業を継ぎ、百五銀行頭取や数々の企業の要職をこなして財界で活躍する多忙な日常を過ごす一方、陶芸、日本画、書、木版画、建築、油彩画、写真、パステル画、俳句などの各方面にその芸術的才能を発揮します。とりわけ50歳を超えて本格化した作陶は破格で、趣味の域をはるかに超え、当時の沈滞していた陶芸界に革新的な息吹を吹き込みました。茶道に対する深い理解、そしてユーモラスかつ壮大な思念を込めた作品は、ひとつひとつが大きな宇宙とも呼べるふくよかさを持っています。半泥子の作品やその芸術・文化における鋭い着眼点と深い知識は、交流を重ねた荒川豊蔵や金重陶陽、三輪休和、三輪壽雪らをはじめ、若き陶芸家たちにも深い影響を与えて、昭和における陶芸復興の礎ともなりました。
また半泥子は文化事業の優れたパトロンの顔も持ち、地域振興の事業も手がけ、私財を投じて三重県下初の総合文化施設となる財団法人石水会館を創設しています。
あくまで素人として創作活動を行い続けた半泥子の作品は、幅広い交友関係に贈られ、愛蔵されてきました。それゆえ、その名声に比して、まとまって作品を鑑賞する機会には恵まれてきませんでした。
本展では半泥子没後、同財団を母体に、遺族からの寄贈を受けて昭和50(1975)年より登録博物館として活動を始めた石水博物館の全面的な協力を得て、陶芸、書画のほか建築、写真、俳句や資料などにもふれて半泥子の全貌に迫ります。半泥子が生み出した芸術の世界を存分にお楽しみください。