2005年から2008年にかけて、植田正治のヨーロッパ巡回展が開催されました。この展覧会は、スペイン、スイス、フランスの計6会場を巡回した大規模な回顧展であり、植田の写真が、国内同様、海外でも高く評価されていることをあらためて証明するものとなりました。作品のセレクションは、フランス人の著名な写真評論家ガブリエル・ボーレ氏が担当し、実際に植田正治写真美術館を訪れ、膨大な所蔵作品のリサーチを1週間にわたり行い、植田の写真の魅力を伝えるに相応しい作品の選択を行いました。1930年代の初期の作品にはじまり、代表作の数々、そして晩年の作品までを網羅するオーソドックスなものではありますが、ヨーロッパのアートとしての写真の歴史を熟知した氏のセレクションは、今までにはない新鮮で魅力的な構成となっています。
1930年代、植田が本格的に写真に取り組むきっかけのひとつとなったのは、海外の前衛的な写真表現が紹介された『MODERN PHOTOGRAPHY』という一冊の写真集でした。その植田が、海外で高く評価され、こうした素晴らしい展覧会が開催されたことは単なる偶然ではありません。ヨーロッパの写真を単になぞるのではなく、独自の表現を模索し、独創的なスタイルを確立した植田だからこそ、その没後に海外でこうした展覧会が実現したのです。本展は、この意欲的な企画の成功を記念し、ヨーロッパの人々を魅了した植田正治の写真家としての軌跡を紹介いたします。