この秋、静岡県において「国民文化祭」が開催されます。これにともない三島市は、「和歌」をテーマとした事業を実施します。それは当地が、歌人東常縁から連歌師飯尾宗祇へ古今和歌集の奥義が語り継がれた「古今伝授」の地と伝えられるからです。当館は、古今和歌集をモチーフとした美術工芸品から、平安王朝の美を探る展覧会を開催します。
『古今和歌集』は延喜5年(905)、天皇の命で編纂された初の和歌集です。古今集の誕生で和歌は王朝文化の中心となり、名筆家が和歌を書いた料紙は、最高の贈答として尊ばれました。料紙には、唐紙、染紙に金銀砂子、雲母など優美な装飾が施され、流麗な仮名文字と融和した雅な世界が作り出されました。そこには平安貴族が、仏典を荘厳することで祈りの心を示したように、森羅万象を表現の対象としてきた日本人の、言葉と文字に寄せる深い思いが伺えます。平安時代以降も、優れた歌人と代表歌をあわせ描いた歌仙絵や、仮名文字をデザイン化した手箱や装束に、和歌を美しく引き立て称える心は受け継がれていきました。
本展は平安時代から近代まで、国宝・重要文化財を含む名品約65点を紹介します。和歌の彩りに表れた王朝人の雅の心、それは日本の美の結晶として、今も変わらぬ煌きを放っています。