元禄時代(1688~1704)の赤穂事件にもとづく「忠臣蔵」は、今も昔も人気の高い物語のひとつです。江戸城内での赤穂藩主・浅野内匠頭の吉良上野介にたいする刃傷にはじまり、内匠頭の切腹、遺臣たちによる吉良邸への討入りという一連の出来事は、浄瑠璃や歌舞伎、文学などで、フィクションを織り交ぜながら繰り返し演じられ、語られてきました。とくに明治から大正・昭和初期にかけては忠君愛国の精神につながるものとして、義士たちの忠誠が賛美されました。
このような時流の中で、大正10年(1921)に刊行されたのが『義士大観』(義士会出版部刊)です。史実に従って赤穂義士の事跡をまとめたこの豪華大型画集は、賛文と木版多色摺の絵からなり、史論家の福本日南による解説が付属しています。賛は政界や文学・芸術界などの著名人127名が寄せ、絵は小堀鞆音や下村観山、松岡映丘、北野恒富、伊東深水、小杉未醒ら、あらゆる画派・団体の画家82名が一場面ずつ手がけています。各画家特有の色づかいや筆致が高度な木版技術によって紙上に再現され、抒情性豊かに物語が展開していきます。従来の典型的なものとは異なる、個性あふれる新しい「忠臣蔵」といえるでしょう。
このたびの展覧会では、『義士大観』の中から心に残る場面を厳選してご紹介します。併せて、浮世絵の作例として北斎門下の昇亭北寿の「忠臣蔵」シリーズを展示します。赤穂義士の物語をたどりながら、当時の一流画家たちの競演をお楽しみください。