日本近代洋画界の先駆者、前衛絵画の開拓者といわれる萬鉄五郎は、若い頃漫画家を志した時期もありました。もし、萬が漫画家となっていたなら、どのような作品が生まれていたのでしょうか。彼が生きた時代から時は過ぎ、「マンガ・まんが・漫画・MANGA」は世界に類を見ない独自の進化を遂げ、現代日本を代表する文化に位置づけられるまでになっています。
マンガ研究が進みつつある近年、先達の偉業を紹介する展覧会、マンガ史を概観する、あるいは現代美術との関連性を指摘する企画など、美術館でマンガが紹介されることもめずらしくはなくなりました。
上記のような行為によって、ハイカルチャーとサブカルチャーといった領域とそのあいまいな境界、あるいは日本と他国におけるマンガの位置づけや表現の差異などが少しずつ明らかにされ、巨視的に捉えた「マンガ」文化が姿を見せつつあります。では、一地方という微視的視点において、マンガはどのような様相をみせるのでしょうか。
今回石神の丘美術館と萬鉄五郎記念美術館が合同で開催する、本展では、岩手出身・岩手在住もしくは岩手にゆかりのある漫画家の作品を集め、個々の表現に注目しながら漫画家・作品を概観します。
マンガという表現・発表形式とローカル性とは一見相容れないもののように思えます。むしろ地域性など消し去ってしまいたい場合もあるかもしれません。しかし、一方で地域性や風土性が、作品世界を構成する上で重要な要素となり、時には「地域・風土」そのものがテーマとなる場合もあります。表現者自身にとっても、自分の生まれ育った地やゆかりの場所が、陰日なたとなり内在する表現性に影響を及ぼしていることは想像に難くありません。
今回、ローカリティーという切り口で、一地方「岩手」の表現をとらえることで、マンガをめぐる状況の一端を明らかにしたいと思います。