「ロシアのモナ・リザ」と呼ばれている《忘れえぬ女》。本当は《見知らぬ女》という題ですが、その魅惑のある表情のためか日本ではいつの間にか《忘れえぬ女》という名で知られるようになったほど多くのファンを持つ作品です。この作品を所蔵するモスクワの国立トレチャコフ美術館は、エルミタージュと並んでロシアが世界に誇る美術館で、10万点を超えるコレクションで知られています。なかでも創始者パーヴェル・トレチャコフが熱心に収集した19世紀後半から20世紀初頭にかけての作品は、「移動展派」と呼ばれた画家たちの作品を中心に、世界でもここでしか見ることのできない質の高いコレクションを形成しました。
本展では、トレチャコフの愛した、ロシア美術の代表的画家、レービンやクラムスコイ、シーシキンなど、この「移動展派」の作家を中心に、38人の作家による75点の名品でリアリズム(写実主義)から印象主義に至るロシア美術の流れをご紹介します。リアリズムといえば、19世紀から20世紀初頭のロシア美術を理解するうえで最も大事なキーワードといえますが、本展では、そのリアリズムがロシアという風土の中で印象主義的なものへと変貌していく様子を、壮大な自然などロシアの風土に根ざした作品や、モデルとなった人物の内面までも描写したような迫真の肖像画、人々の生活や日常の何気ない情景を描いた作品と、「自然」「人」「風俗」の三つのテーマに着目しながら体系的にご紹介する日本で初めての展覧会です。50点以上が日本初公開のこの展覧会、ご覧いただければきっと「見知らぬロシア」が「忘れえぬロシア」へと変わることでしょう。