2008年、高梁市成羽美術館ではシリーズ「アート・ビジョン」を再開しました。このシリーズは、当館の顕彰する郷土出身の画家 児島虎次郎(1881-1929)の業績に想を得て、始めたものです。20世紀初頭、児島はパトロン大原孫三郎の深い理解のもと、同時代のアートの動向を研究し西欧から多数の作品を持ち帰り、芸術を志す人々に大いなる励ましを与えました。その作品群は、現在も大原美術館で多くの人を魅了し続けています。1994年、成羽美術館は、安藤忠雄氏設計によりリニューアルします。高い天井、コンクリート打ち放しの壁、外光をふんだんに取り入れた空間は、さまざまな表現活動を受け止める大きな可能性を秘めた場所でした。1996年から、同時代のアートの動向を探る試みとして個展形式で作家を紹介するシリーズ「アート・ビジョン」をスタートさせ、2001年まで毎年、精力的に活動を展開する作家達の彫刻、セラミック、テキスタイル、絵画を紹介してきました。そして2008年には、ことばや文字、記号をモチーフに制作している美術家イチハラヒロコの初期の制作から新作インスタレーションを展観しました。
2009年度は、かつて児島虎次郎も学び新境地を開いたベルギーゲントを制作の拠点とし、帰国後は広島県福山に制作拠点を移して、絵画の新たな可能性を追求し続ける画家 小林正人を紹介します。
小林正人は1957年生まれ。1984年東京藝術大学美術学部絵画専攻を卒業後は東京を拠点として制作活動を展開し、画廊での個展や美術館でのグループ展に多数出品しています。1994年新進画家の登竜門であるVOCA展では奨励賞を受賞、1997年にはゲント現代美術館館長ヤン・フート氏の誘いを受けてベルギーに渡り、2006年までの9年間をゲントで過ごしました。2000年宮城県立美術館で個展開催、2007年東京国立近代美術館の所蔵作品展に出品作家として参加、小林のフロアレクチャーは多くの聴衆で埋められました。小林正人の作品を取り巻く空間との関係性を重視した制作スタイルは、絵を描くというより空間全体を新に描き出す表現行為にも思われます。よって当館の空間性に作品がどのように呼応するのかも今展の見どころとなります。また画家本人が「現実の光に遭遇した」というゲント体験は、100年前の児島虎次郎の留学体験とも重なります。そうして獲得された光が・・・