「庭」と「室内」。どちらも人間の生活と切り離すことのできない空間として、西洋ではしばしば絵画に描かれてきました。キリスト教世界で「エデンの園」を起源とする庭は、現世から隔てられた楽園として、一方の室内は、日々の営みがされるいわば通俗的な場として表されるのが一般的でした。しかし、19世紀半ばから20世紀にかけてのフランス絵画では、このふたつの空間は従来と異なる様相で映し出されています。
「庭」は非日常的なイメージを脱し、パリ改造により新たに市民の憩いの場となった「都市の庭」や、郊外に見出された「自然の庭」として、印象派周辺の画家の作品に頻繁に現れるようになります。また、モネの「睡蓮」連作や、身辺の何気ない風景をあざやかな色彩で謳いあげたボナールの作品では、画家が独自に絵画を追究する空間としての「画家の庭」が出現しています。
また、「室内」も19世紀末、その日常性や閉鎖性が強調され、絵画の重要な主題となります。室内装飾の模様を画面に巧みに採り込んだヴュイヤール、生活をともにする伴侶を描き続けたボナール、そして室内空間を装飾的構成へと昇華させたマティス。20世紀に入ると、室内はただ画面に描かれるのではなく、画家に着想を与え、制作を根本からつき動かす空間となっていきます。
「庭」と「室内」という日常の空間は、新たな時代の絵画とどのように関わりを結び、どのような表現をきりひらいたのか。ボナールとマティスの作品を中心に探ります。