本展は、近年、目覚ましい躍進を遂げ、多様な展開を見せている、韓国の現代美術の現在、その一様相を日本において紹介する展覧会です。
韓国の独自の文化、伝統に根付いた美意識や、民族的、社会的な歴史を背景に築かれてきた韓国の美術は、1987年の民主化宣言以降の急速な変化や、その後の情報化社会の訪れに加えて、光州ビエンナーレなどの国際展の開催や海外との交流、現代美術館、アートスペース、商業画廊の増加によってアーティストの発表の場が拡がり、取り巻く環境の変化にも影響されながら、多様な展開を見せてきました。
タイトルの<ダブルファンタジー>とは、現代社会のひとつの断面を表す言葉として用いています。現代においては、自然と人工、現実と虚構、伝統と革新、ローカルとグローバルなどの相反するものが、対立という位置に在るのではなく、共存、もしくは混在する状況もしばしば見受けられます。コンピューターや科学技術の進歩、情報化社会の発達に伴い、そうした相反するものの領域は曖昧となり、時にそれらは混じり合い、ハイブリッドなものを生み出したり、あついは奇形的な進化を遂げ、歪みや亀裂となって表れたものが、新たな価値観や、美意識の礎となることもあります。
また最近では、現実の世界にフィクションでしか起こりえないような凄まじい出来事を見せつけられることも多く、夢が意識に対する補償作用となるように、私たちは意識下において、ファンタジーに救いを求めることもあるのではないでしょうか。そして、曖昧で不穏な時代に生きる私たちにとってのファンタジーとは、闇と光の両方の側面を持ち合わせ、ある種のグロテスクさをも内包していることで、リアリティを持って迫ってきます。
本展では、こうした時代の深層を敏感につかみとり、絵画、写真、ビデオ、彫刻、インスタレーションといった多様なメディアを用いて視覚化している韓国の若手アーティストの作品にフォーカスしています。本展を通して、日本の観客が、同時代の空気を共有したり、また差異に刺激を受けながら、“近くて遠い国”と称される韓国を新たに見つめたりする機会となることでしょう。参加作家は活躍が期待されている若手作家が中心となり、日本での紹介は初めてとなる作家も多く、これまでのステレオタイプなイメージを超えた、新しい韓国現代美術の息吹を伝えます。