19世紀後半から20世紀前半にかけてのベルギーは、本国の何十倍もある植民地からの富が産業革命を加速させ、飛躍的な発展を遂げました。その恩恵は芸術の分野にも及び、多くの優れた画家を輩出し、勢い付いたリベラルな若い実業家たちは新しい芸術を支えました。
しかしながら皮肉にもその芸術の中身は、発展する近代社会における人間の疎外を背景にしたものでした。ある芸術家は空想の世界に、あるいは黄昏の薄暗がりの中に逃げ場を求め、またあるものは過去の世界に心の平安を見出しました。この時代に最も強いメッセージを放っていたのは、象徴主義、シュルレアリスム、表現主義にまたがるこうした内向的な芸術家たちの作品群、つまり「ベルギー幻想美術」だったのです。
ここで特徴的なのは、女性の圧倒的な存在感です。多くは優雅な貴婦人として、あるいは世紀末の魔性の女として、ときには中性的な不思議な魅力を持つ少女として描かれる女性たちは、いわば画家自身の分身として、その目で、あるいは体で、何かを訴えかけ、観る者を彼方へと誘っていきます。一連の作品が醸し出す雰囲気が似ているのは、このような背景を共有しているからなのです。
かくも優れた作品群が日本にまとまって存在していることに敬意を表し、「ベルギー幻想美術館」という名のもとに開催される本展は、ベルギー近代美術の精華を堪能する絶好の機会となることでしょう。