■博多から京都へ
福岡県出身の冨田溪仙(1879-1936)は、画家を志して18歳頃に京都にのぼり、四条派に連なる都路華香に師事しました。四条派の写生を学ぶ一方で、古今東西の文学や美術、宗教などに通じ、また江戸時代の博多の禅僧・仙崖やヨーロッパの新しい美術などの影響も受けながら、やがては自在な筆遣いによる大らかで斬新な画風を形作っていきます。
■横山大観も認めた才能
京都画壇において異質な存在だった溪仙を高く評価したのは、日本美術院の横山大観でした。溪仙は大観の誘いにより京都画壇から東京の日本美術院に参加し、色彩豊かで動きとリズムに満ちた作風に詩的情緒も加えながら、昭和11年(1936)に急逝するまで異色の画家として活躍しました。
■みどころ
溪仙の回顧展は、関東では約30年ぶりの開催となります。本展では、初期から晩年までの代表作を網羅し、約130点により溪仙の画業とその多彩な個性の発露をご紹介します。また、溪仙と交流のあったフランスの詩人で駐日大使も務めたポール・クローデル(1868-1955)の依頼によって描かれ、現在はパリのジョルジュ・ポンピドゥー・センターに所蔵されている「神庫」がこのたび里帰りをするのも、大きなみどころのひとつです。そうぞこの機に、風雲児・冨田溪仙の自由奔放な絵画世界をお楽しみください。