「日常」とは、私たちが日々経験していながら、通り過ぎたその直後には、何事もなかったかのように忘れ去られてしまう儚(はかな)いものかもしれません。けれども、日常の中でふと眼にとまった光景や些細な一瞬を、静かに見つめ丁寧に対話することによって生まれた作品たちが、特に近年、確かな存在感をもって私たちに語りかけてくるのを感じます。このような作品は、作者の個性によって世界を異なった表情に表現する方法とは、一見正反対のように見えますが、現実を見つめ、そのすぐ横に隠されていた本質やものの見方を「露わに」しようとするという点では同じといえるでしょう。今日のように高度に情報化が進み、その管理も強まっている中では、私たちは「世界と向き合っている」という実感を持ちづらくなっています。本展で展示する作品は、そのような世界に、あくまで愛しさを持ちながら、対話を重ねようとしています。ときには、鏡の中の自分をふいに覗き込んだかのように、現実を突きつけられるかもしれません。けれどもそれは単なる批判ではなく、巧妙に隠されているものに光をあてようとする、作家たちの真摯な姿勢に他なりません。一見平明に見えるものの中にこそ、本質は透けて見えてくるのです。駒井哲郎、野田哲也ほかの現代版画と、ホンマタカシらの現代写真による構成。