本展は、デュフィが好んで描いた【海・音楽・競馬】の三大テーマを中心に、彼の初期から晩年に至る名品を一堂に展示致します。
港町ル・アーブルで育ったデュフィにとって、海は特別な存在でした。「青のデュフィ」の異名をとる彼は、『青はその諧調のいかんにかかわらず、それ独自の個性を保ち続けている唯一の色である』と述べています。光溢れるニースの浜辺が描かれた「ニース(幌付馬車と三本の椰子)」や「ニースのホテル」は、彼がまさに自分の青を見出した頃の作品です。その他、競技会後の風を孕んだ帆に颯爽と吹き抜ける潮風を感じる「ドーヴィルのレガッタのあと」や17世紀の風景画家クロード・ロランへのオマージュとして描かれた「クロード・ロランに捧ぐ」などの作品をご覧頂きます。
音楽一家に育ち、偉大なチェリスト、パブロ・カザルスとも親交のあったデュフィは、終世こよなく愛した音楽をテーマにした作品を数多く遺しました。その中でも演奏者側の視点で描いた「オーケストラ」は、ホールの奥行きや個々の演奏者の動きまでもリズミカルに表現され、絵画から音楽が流れ出るような作品になっています。又、彼が最も愛した楽器であるヴァイオリンをモチーフに描いた「赤いヴァイオリン」、のびやかな色彩、いきいきとした明るさに満ちた晩年の音楽シリーズの優品「黄色いコンソール」も展示致します。
競馬シリーズでは、走る馬の瞬時の動きの美しさに魅せられたデュフィの、素早い筆致の卓越したデッサン力が窺える「ドーヴィルの競馬」を展示致します。
大作の「パドック」は、真っ青な海の青と緑の芝生の明快な色彩の対比とレースを待ち望む人々の姿が、いかにも楽しそうで快活に満ちています。レース前の緊張感というよりも、むしろ優雅さやすがすがしさが感じられ、デュフィならではの新鮮な幸福感が表現されています。
木版画の作品として、挿絵本の歴史においても初期の傑作と数えられており、アポリネールの詩にデュフィの版画、ピエール・ルグランの装丁という三拍子揃った挿絵本、アポリネール『動物詩集-オルフェウスの従者』を展示致します。
鎌倉の夏の海を眼下に望み、緑に囲まれた当館でデュフィの名品に出会う幸せな一時をお過ごし下さい。