写真の画面の中に配された人物や独自の空間意識を感じさせる植田正治の〈砂丘モード〉の作品群は、いまもなおその輝きが失うことなく、私たちに新鮮な感動を与えてくれます。
1983年、デザイナー菊池武夫氏に撮影依頼をされたのをきっかけに、再び鳥取砂丘を舞台に撮影された作品群は『TAKEO KIKUSHI AUTUMN AND WINTER COLLECIRON ’83- ’84』のカタログの中に収められています。当時、これらの「ファッション写真」は、新しい写真表現として注目を集め、その後植田はさまざまなファッション写真を手がけていきました。
1930-40年代に撮影された砂浜や砂丘に人物を配した演出や巧みな空間処理は、人物はひときわは不思議な存在感を放ち、これらの手法は80年代以降の撮影でも独自の表現の中で表出しています。写真家の自由な意志とファッションデザインそのものとが共鳴しながら創出され、帽子やステッキ、コウモリ傘など、シュールレアリスムのイメージを漂わせるモチーフも登場し、それまでにはない「ファッション写真」として存在しています。
非日常的な空間と非現実的なイメージは、「ファッション」あるいは「広告」という枠組みのなかでその枠組みを意識することなく、植田の表現は独自の広がりをみせていきました。
今回の展覧会では、ファッション写真でありながら、植田独自の感性で描かれた作品の数々をご覧いただけます。