漆器は東アジアにおいて古くから生活用品に取り入れられていました。器の強度を高め、水を通さないという性質をもつ漆は、優れた塗料として活用されてきました。実用上の利点に加え、磨き上げると美しい光沢を持つことも、漆器の大きな特徴となっています。その特質を生かし、器を美しく飾る技法が生み出されました。色漆で模様を描く彩漆、厚く塗り重ねた漆に彫り文様を施す堆朱や堆黒、金銀粉を用い文様を表現する蒔絵、貝殻片で文様を表す螺鈿など、多様な装飾技法が東アジアの漆器に見られます。
本展覧会は、当館が所蔵する中国と日本の漆器約60点で構成します。中国の作品は、漢時代の耳杯と呼ばれる杯、宋時代の奩(重箱形の化粧道具入れ)、明時代の経帙(経典収納具)、香合など約20点を陳列します。日本の作品は、江戸時代を中心に、湯桶(湯を注ぐ器)、大鼓胴(楽器の大鼓の胴部)、棗、硯箱、印籠など約40点を陳列します。
黒漆や朱漆の落ちついた色彩、螺鈿や蒔絵の華やかな文様など、中国、日本で愛用されてきた漆器の魅力をこの機会にご鑑賞下さい。
なお、本展覧会の開催期間中、漆器の印籠と同様に江戸時代の人々が身近で用いた携帯用筆記具、「矢立」を美術館本館にて陳列いたします。あわせてご覧下さい。