染織家であった故・瀧澤久仁子氏は、ランナー朝の古都チェンマイに暮らし、一枚の布―タイ・デーン族のパービエン(肩掛け)―と出会ったことをきっかけに、タイ族をはじめ多様な民族の美しい布を丹念に見出し、膨大なコレクションとして遺しました。
高度な織と染の技術を持ち、美しい布を作る“タイ族”。ここでそう呼ぶのは、タイの国に住む人々のことだけを意味するのではなく、遠い古代に北方から移動して、現在のタイ、中国、ベトナム、インド、ラオスなどに分布して住む民族のことを意味しています。
瀧澤コレクションの概要は、すでに「太陽と精霊の布」展(2004年 千葉市美術館ほか)において公開され、その美意識に多くの方々が感銘を受けました。本展覧会は、さらにコレクションの調査を進め、瀧澤氏が最も愛したタイ族の布文化という視点を深めようとするもので、多くが初公開となる選りすぐりの191点により構成されます。
家族の守護や豊かさといった祈りを込めながら、母から娘へ伝えられて来たタイ民族の精神と美意識は、布にどのように表現されているでしょうか。瀧澤氏自身が旅の中で撮影された写真も合わせてご紹介いたします。