現在手にする紙の殆どは、機械を用いて作られる西洋式の紙、すなわち洋紙です。
近代、この洋紙の流入に対して、日本に自生する楮(こうぞ)や雁皮(がんぴ)などの植物の繊維を利用して、手漉きにより作り出された紙を和紙と称するになりました。それまでの長い時代、和紙は文字や絵を表わす素材として重要な役割を担うとともに、そのしなやかで丈夫な特性から多様なすがたに加工されて、暮しの隅々にまで深く浸透して用いられてきました。この和紙を育み表現に用いてきた歴史からは、自ずと日本人の美意識が感じられるとともに、日本人の暮らしにおける和紙には用と美の調和をみることができます。
本展では、和紙の発展を促した写経をはじめとして、和紙を美しく飾る技法が施された紙や工芸品、紙衣(かみこ)や紙布(しふ)などの衣料、さらに屏風(びょうぶ)や襖(ふすま)に障子(しょうじ)、行灯(あんどん)や提灯(ちょうちん)など、日本の風土に相応しい調度や器物、日本人の豊かな造形力がみられる折形や遊戯折り紙など、多彩な表情を持ち日本の文化を支えた和紙の世界をご覧いただきます。
和紙に替わる素材が多く活用される現代において、改めて素材としての和紙を見つめ直し、その魅力をご紹介します。