群馬県桐生市に生まれ、横須賀で育った写真家石内都(いしうち・みやこ)は、1970年代後半より活動をはじめ、国内外の展覧会出品や写真集の刊行など、30年のキャリアを持つ現代日本を代表する作家のひとりです。初期の作品群《絶唱、横須賀ストーリー》、《APARTMENT》(木村伊兵衛賞受賞作)、《連夜の夜》において街の情景、建物、壁などを粗い粒子でプリントするスタイルで注目を浴びた後、1980年代後半からは人間の身体に関心を移し、手足や傷跡、加齢による皺など、時の経過により人間の身体に刻まれる生の軌跡を追求しました。2002年には、亡き母の遺品を撮影した《Mother’s》を発表。2005年のヴェネツィア・ビエンナーレで日本代表作家として同シリーズを展示し、世界的な注目を集めました。2008年には新作《ひろしま》で原爆の遺品を撮るという新たな展開を見せ、写真集《ひろしま》と広島での展覧会活動により、本年、第50回毎日芸術賞を受賞しました。
本展覧会は、石内の生誕地、群馬で行われる初の本格的個展として、《1・9・4・7》から近作《ひろしま》までの身体と遺品をめぐる作品約120点をご紹介します。身体をテーマとした作品としては、同年生まれの女性の手足と顔を撮影した《1・9・4・7》、男性の体の末端を探求した《爪》、舞踏家大野一雄の膚を撮った《1906 to the Skin》、傷跡を接写した《SCARS》、《INNOCENCE》に加え、今回、展覧会で初発表となる、トランスジェンダー(性別越境)を扱った《A to A》を展示します。また、母親の火傷痕を撮った《25 MAR 1916》と、他界後に遺品を撮った《Mother’s》のシリーズをあわせて展示し、偶然のめぐりあわせをはらんだ石内の人生と創作の関係に注目します。《ひろしま》からは、これまでの作品に加え未発表の作品もご紹介します。
写された在/不在の身体のむこうに、終わりのない時間を刻む無限の世界-Infinity-を探るかのような、石内の研ぎ澄まされた眼差しを体感してください。