稀代の美食家にして、書、刻字、篆刻、絵画、陶芸、漆芸に優れた作品を数多く生み出し、さらに古の書画骨董類の収集・鑑賞においても抜きんでた存在であった北大路魯山人は、その作品を通してこれまで多くの人々を魅了してきました。しかし同時に歯に衣着せぬ奔放な言動に彩られた魯山人の破天荒な生涯は、しばしば小説やテレビなどにとり上げられ、傲岸不遜な魯山人のイメージが世の中に浸透しており、生前はもちろん近年に至るまでそうした人間魯山人像は強く人々に印象付けられ、一部魯山人の作品に対する正当な評価が下されない一因にもなっているのではないでしょうか。
本展覧会では、魯山人の制作活動の出発点となる貴重な刻字、篆刻、書画類をはじめ、初期から晩年に至る主要な陶芸作品が出品され、特に〈食器は料理のきもの〉という言葉を遺した魯山人が顧問兼料理長を勤めた会員制の高級料亭「星岡茶寮」において使用された彩り豊かな器類を含む多様な陶芸作品は、美と食の世界に新たな世界を築き上げた魯山人独自の世界観を伝えてくれます。
没後50年を迎えた今、曇りなき眼を通して魯山人の遺した多種多様な約250点の作品をご覧いただき、魯山人の作品世界をあらためて見つめ直す機会としていただきたいと思います。