染野義信(よしのぶ)・啓子(けいこ)ご夫妻が生前に情熱を傾けて収集された美術品284件が、ご遺族から東京国立近代美術館と山口県立萩美術館・浦上記念館に寄贈されました。
このコレクションは、とりわけ陶芸を中心として、日本の工芸の近代的な発展をみるうえで非常に重要な作家たちの基準的作例や代表的作品が充実しており、かねてより陶芸関係の研究者や作家、愛好家などには知られた存在でした。
ご夫妻の近現代陶芸コレクションの特徴としては、昭和30年代後半から平成10年代末までの長きにわたって収集された作品であること、とくに収集件数からすれば、昭和40年代の収集作品が過半を占めていることが挙げられます。
ご存知のとおり、この時期は日本の高度経済成長期にあたるとともに、戦後社会の激変を乗り越えた人々の心が、人間的な豊かさを求めて、芸術文化に成熟した眼差しを注ぐようになった時期でもあります。染野ご夫妻は、こういった社会的背景のもとに、日本伝統工芸展などに出品する作家たちと親しく交わりながら、お二人の美的感覚に共振する作品の収集を重ねていかれたようです。このことは、この陶芸コレクションをもっとも明確に性格づけている、バーナード・リーチ、濱田庄司、荒川豊藏、三輪壽雪をはじめとする人間国宝やそれに準ずるクラスの陶芸家たちの作品が、その時期に集中して収集されていることからもうかがえます。
本展覧会は、受贈した両館が収蔵する作品のなかから、これら秀逸な陶芸家の作品を中心に紹介し、その遺徳を顕彰するものです。
この機会に、染野ご夫妻が美術品収集に傾けられた、創造的知性と情熱のすばらしさを感得されるとともに、日本の陶芸の魅力と現代に生きる陶芸家たちの表現活動について、一層の関心を持たれるよう願っております。