世紀の移行と価値の転換期、悲惨な戦争と混乱の渦中に2009年が訪れ、私たちを取り巻く環境の異変は容赦なく速度を増すばかりです。そして、私たちの心身は、傷つき、飢え、乾き、彷徨いながら、太古から変わらぬ生命活動を日々営んでいます。
人間にとって「愛」ほど不可思議なものはないでしょう。哲学者の谷川徹三は「愛に対立するのは、憎しみではなくて冷淡と無関心である」と述べています。私たちは「愛」を、自分たちの儚い生命の拠り所としてきました。そして今ほど、その「愛」が問われている時代もないのではないでしょうか。
開館5周年を迎える金沢21世紀美術館は、円形ガラス張りの透明性・水平性・多方向性が全展示室で稼働する開放系に、あらゆる既存の境界を超えて、人文、社会、自然科学の各分野の研究者や活動家、そして美術、音楽、文学、身体表現等、多様なジャンルの大勢の表現者たちを招き、「愛」をめぐって語り合う場を創出します。
展覧会「愛についての100の物語」に様々なかたちで立ち現れる表現は、いつでも誰かに受けとめられ、語られ、変貌することを待っています。物語とは、出会いの場で交わされる“オープン・ダイアローグ”(開かれた対話)そのものなのです。美術館で絶え間なく生成する対話を通じて、無数の物語があふれ出すことでしょう。