19世紀に日本に西洋から伝わった洋画と写真、そして印刷技術。これらの技術は19世紀から20世紀にかけての美術にさまざまな変化をもたらしました。とくに写真というレンズを通して見える世界は、新しいメディアとして人々の知覚にこれまでにない驚きと発見を与え、絵画にも大きな影を投げかけました。伝来当初「迫真」という点において、画家は絵画の題材を写真から採るなどして絵画と写真の相互的な関係を活用しましたが、明治半ば以降、写真の芸術性が唱えられるようになると、写真家は絵画を意識した写真を制作するようになります。「ピクトリアリズム(絵画的写真)」と呼ばれるそれらの写真は、絵画との関係を考える上で欠くことはできません。大衆化が進む一方で、写真ならではの表現による「芸術写真」が生まれてきます。絵画と写真はつねに互いを意識し影響しあいつつも、独自の表現を追求してきました。
これまでにもヨーロッパにおける絵画と写真に関しては紹介されることはありましたが、近代日本という舞台で、絵画と写真の関係を実際の作品として並置させて知覚の表現手段としてどう互いに影響しあい、または自律していったかということを検証した機会はあまりありませんでした。今回の展覧会では、まずは19世紀の新しい視覚体験として少なからず衝撃を与えた写真の登場からはじめ、写真と油彩画、日本画あるいは版画といういくつかのメディアを対比させて、幕末から1939年の国画会の写真部門創設をひとつの区切りとして、日本でのリアリズムの問題や近代絵画、近代写真の成立を考える試みです。写真50点、油彩画50点、日本画20点、版画80点、総計約200点を展示いたします。