ニューヨークと東京を拠点にしながら、写真表現の第一線で活躍中の杉本博司(1948年生まれ)。本展覧会では、この日本を代表するアーティストが集めた収集品と制作した写真作品を、共に展覧して、杉本博司その人に総合的に迫ります。
「歴史の歴史」と呼ばれる杉本博司の個展は、2003年に東京で初めて開催され、その後、北米4都市を巡回してきました。そしてこのたび、かつてない規模となって日本に帰ってきました。
今回の大阪での展覧会では、緩やかに湾曲した40m以上の壁面を代表作《海景》が飾るとともに、薄暗い900m?もの展示室に放電現象を記録したライト・ボックス式の新作《放電場》が林立します。いずれも建物としての当館の個性を活かした壮大な展示です。
人類誕生以前の自然界の復元模型を写した《ジオラマ》も、代表的シリーズですが、本展覧会では本物の化石や石器と共に展示されます。当館所蔵の《観念の形》シリーズと《建築》シリーズも数点出品されますが、《観念の形》は、新たに作製されたアルミニウム製の模型と並べて展示されます。
杉本博司の収集活動の始まりにして、収集品の中心をなすのは、日本の伝統美術工芸品です。アートとは精神を物質化する技術と考える杉本博司は、古美術に技術を学び、写真制作に活かしてきました。近年は、18世紀の解剖書や、20世紀の偉人の肖像や、月探査をめぐる珍品や隕石など、美術工芸品ではない近現代のモノが多数収集されています。それらは杉本博司のこれまで知られていなかった側面を垣間見させてくれるでしょう。
他方、本展覧会の開催を契機に刊行される図録は、印刷物による「歴史の歴史」であり、展覧会を補う性格を持ちつつも、独自に完結した世界を形成しています。そこでは杉本博司自身が収集品の解説文を書き、図版用写真を撮影しています。
杉本博司が全面的に現在の自己を表現した本展覧会は、この希有なアーティストの芸術観・歴史観・世界観に触れるまたとない機会となるに違いありません。