細川コレクション永青文庫展示室ならびに熊本城本丸御殿の開館1周年を祝して開催する本展は、「昭君の間」で昨年の話題を呼んだ本丸御殿の障壁画をテーマに、時代を越えて「描き・極め(鑑定)・模写」した御用絵師たちにスポットを当てます。
「描」いた絵師で登場するのは、狩野言信(源四[七]郎)と矢野吉重です。加藤清正の築城時に、昭君の間の壁画および天井絵を描いたとされる狩野言信は、これまで記録から名前が知られるのみでしたが、近年発見された《住吉社頭図》によって、実像の一端を垣間見ることができるようになりました。矢野吉重は、細川忠利によって御殿が改修・増築された際に障壁画を描いた絵師で、《月に梅図》など、熊本城との関わりが指摘される伝承作品がいくつか現存しています。
「極」めた絵師は、築城から約150年を経た江戸時代中期に活躍した矢野雪叟です。雪叟は、本丸御殿の各部屋の障壁画の筆者を鑑定した《御天守密書》を著し、障壁画の復元に重要な手がかりをのこしました。
そして「模写」したのは、幕末の絵師・杉谷行直です。昭君の間の天井絵や城内の障壁画の一部をスケッチしたり、藩主の御座船の壁画を描くなど、数々の公務に関わり、それらの作品が現存しています。
本展では、平成の障壁画復元事業に重要な手がかりを遺した彼らの作品を中心に、関連作家の作品や資料類、御用絵師の系譜につらなる近代画家の作品など約50点を、財団法人永青文庫や熊本市等からの特別出品を交えて大公開します。
複製や復元品ではなく、かつて熊本城や細川家の邸宅で実際に使用されていた屏風や杉戸絵などを通して、本丸御殿障壁画の往時の姿に思いを馳せていただければと思います。