この展覧会は、鹿児島市立美術館が所蔵する日本画、油彩画のうち、緑色を主調色とする作品20点を展示し、情意的、知識的な側面からの鑑賞ははもちろんのこと、造形的な側面からの鑑賞もお楽しみいただきたいという趣旨で開催するものです。
「緑」は翠、碧とも書き、「瑞々しい」という意味の古語「みど」が語源だといいます。古来、日本人はその「緑」の色を、まさに生命を表す色として特別に好んできました。
一方、絵画における「緑」、すなわち色料としての緑は、造形的な取り扱いが難しい色だともいわれます。画面に色彩を構成する上でメリハリが効きにくく、「緑」だけでは構図を成立させにくいというのです。要するにいかに変化をつけようとも、「緑」は優しく、弱い色だということです。このことは、目に最も刺激を与えない波長をもつ光線が「緑」の光線であるという科学的な事実にも関係しています。
このような性質を持つ「緑」と補色関係にあるのが赤系の色です。この関係にある色どうしには相互に引き立たせ合うという効果があります。信号機を想像してみるといいでしょう。青(緑)と赤は、補色関係にあるからこそいかなる環境の下でも見まがうこともないわけです。「緑」を主調色とする絵画に臨むとき、画家たちはこのことを承知の上で、赤系の色を極めて有効に利用します。とはいえ、この関係は微妙かつ複雑で完璧なバランスの上に成立するものであり、信号機のように単純ではありません。微細な不注意がたちまち画面全体の崩壊をひきおこす危険性をはらんでいます。
さて、今回の展示作品はどうでしょう。「緑」に挑んだ画家たちが、造形上のこの難題をいかに克服しているか。絵画の醍醐味の一つである配色という視点から吟味していただき、絵画における「緑」色の生命力をご堪能下さい。