異界とは人々の生活領域の向こう側、日常の時空間の外側の世界をいいます。この見えない世界をさまざまに想像することで、日々の生活の不安を取り除き、生きていくための拠り所を得ようとしてきました。異界への想像力が生みだし育んできた文化は、豊かな裾野の広がりを形成しています。死後の世界へ向けられた不安、恐れ、あこがれなどは、仏教の普及とあいまって地域的な特色をもつ独自の他界観を形づくってきました。死者との交流はさまざまな儀礼を通して交感され、ときには幽霊という形で語られてきました。人々は、理解を超えた恐怖体験や不可解な現象に遭遇したとき、時として妖怪変化のしわざと考えました。妖怪は口頭伝承の領域にとどまらず、絵巻や錦絵に描かれたりかわら版に取り上げられるなど新たな広がりをみせるとともに、娯楽としても享受されてきました。また、誕生以前や未来も見ることのできない時間的な異界です。人為的な手段を用いて未来やことの吉凶を予測(解釈)する占いは、古く神意を問う方法として発達し、多様な展開をへて現在に至っています。
本展示では、主に「あの世」「妖怪」「占い」を取り上げて、人々が想像してきた異界の様相を多面的に展示するとともに、人と異界との交渉の跡をたどりながら、それを必要としてきた心性と、現代の社会において異界の持つ意味を考えていきます。