鴻池朋子の作品は、鑑賞者の好奇心を呼びさます物語性に満ちています。足が6本の狼、赤いスニーカーを履いた脚の部分しか見えない子供、白い毛に覆われた「みみお」という顔のない生き物、自らの意志で空間を自在に飛翔するナイフなど、幻想的で謎めいたユニークなキャラクターが繰り返し登場します。それらは実は、作家自身の夢や想像、内的世界を単に表現したものではありません。鴻池はより現実的に、「アートの力とは何か」、「展覧会の作用とは何か」を体験(あるいは現象)を通して考えているのです。鴻池は想像力の根源的な力を探し求めると同時に、それが何によって形成されているのか、芸術を生み出す「仕組み」に対しても関心を寄せる作家です。
このたび東京オペラシティアートギャラリーと霧島アートの森の両館で開催される個展において、鴻池は「インタートラベラー」という展覧会名のもと、人間の想像力と地球の引力との関係についての仮説を立てました。私たちの足元にありながら生命が立ち入れない不可視の世界であり、かつ地球という大きな生命体の回転と再生を行う「地球の中心」へ向かう旅に、鴻池は軽やかな旅人(トラベラー)の想像力の根源を見出したのです。東京と鹿児島という離れた二館の地理的条件も、その「地球の中心への旅」の一部に見立てられています。本展は、人間の意識や相反するものの境界を自由に往還する象徴として、異なる世界を双方向に旅をする人=「インタートラベラー」である鑑賞者自身の想像力を喚起します。