卓越した技術を身につけた芸術家たちが、奇抜なアイデアと緻密な計算によって生み出した不思議な世界―この展覧会は、和洋の美術の歴史の中から、私たちの目を欺く「だまし絵」の系譜を紹介するものです。
絵の中の世界が、まるで本当のように見えたとき、私たちは目を疑います。そこでは、芸術家たちが、遠近法や細密描法を駆使して、究極のリアリティと絵画の限界に挑戦しています。時には、わざと絵が剥がれかかっているように見せたり、画面から幽霊が抜け出しているように見せたりする、作り事と現実の境界を飛び越えるような試みさえあり、見るものを楽しませてくれます。
また、表向きの見た目とは別に、予想外の姿を隠し持っている絵画があります。遠くから眺めると人の顔だが、近くで観察すると、その正体が無数の人間や植物の寄り集まった姿だとわかるような「二重像(ダブルイメージ)」、円筒の鏡に映してはじめて、真のイメージが判明する「歪んだ像(アナモルフォーズ)」など…これらの絵画は、はじめは本性を隠し、私たちの目を欺くのです。
「だまし絵の帝王」ヘイスブレヒツ、「フェルメールの師」ホーフストラーデン、「20世紀の巨匠」マグリット、ダリ、エッシャー、「江戸の狂画師」歌川国芳。この展覧会のリストには、一流の奇術師(イリュージョニスト)たちが名を連ねます。そして「奇想の宮廷画家」アルチンボルドの名は、多くの方々にとって忘れられないものとなるでしょう。大英博物館、メトロポリタン美術館、プラハ城など、世界60ヶ所以上の美術館、個人所蔵家から集まった、約100点の作品が一堂に会します。
だまし絵の世界は驚きとユーモアに満ちています。ただし錯覚の面白さだけに惑わされてはいけません。優れた作品は、あなたがだまされたと気づいた瞬間に、隠していた真意を明らかにするのです。