浮世絵黄金期を樹立した歌麿が亡くなり、写楽が活動を終えた後、文化・文政期から始まる幕末の浮世絵はかつてないほどの賑わいを見せ、多様な展開を示しました。幕末の財政は逼迫しますが、逆に庶民・町民たちの生活を潤す結果となり、爛熟した町民文化が隆盛を極めました。
美人画と役者絵のみであった浮世絵が、この時期からいろいろな分野をもち、浮世絵がもっとも浮世絵らしくなり、粋と艶がでて、物語性を内包してバラエティに富み、面白く、内容が充実しました。
旅行ブームがおこり風景画が誕生したのもこの時期です。魔界小説や幽霊芝居の影響で妖怪や武者絵が出現し、時局を諧謔する諷刺絵も始まります。美人画も描かれる対象が下町層へと向けられ、市井の生活が活写されることが多くなり、浮世絵がより時代性、大衆性を帯びていきます。洋風の浮世絵や、横浜の開港を機に横浜絵も出現しました。
本展覧会は、神戸市在住の浮世絵収集家・中右瑛氏の膨大なコレクションの中から浮世絵版画133点、肉筆画22点、合計155点で幕末期の浮世絵の魅力を紹介するものです。