「若い時から“旅”は嫌いだった。いまでもそのとおり、独り旅で知らぬ他国へ行くなんてトンデモナイことで、とても、とても、できることではない。」(『カメラ毎日』1985年4月号「新アマチュア諸君!」)
生まれ育った山陰の地で写真を撮り続け、この地を離れようとしなかった植田正治が突然ヨーロッパ旅行に出かけたのは1972年の晩秋でした。「ヨーロッパの風土や気候は、山陰に似ていた」と語るように、どこか懐かしさにも似たノスタルジックな感情を抱きながらも、見るものすべてを新鮮なイメージとして捉えています。異国の地の風や光を身体に感じ、旅先での出会いや発見を楽しみ、夢中になってシャッターを切っていったのでしょう。この旅をきっかけに、題材や被写体を山陰に限ることなく、アメリカや中国といった国外にも求めるようになりました。常に身近な風景や人物に対し無垢な眼差しを向けていた植田は、どこを訪れてもその姿勢を崩すことなく、対象を独自の視線でとらえ描き出しています。
今回の展覧会では、ファインダーを通して出会う旅の一期一会、そしてどこにいても「写真することを楽しむ」植田の姿勢を感じていただけるとともに、新たな魅力を発見していただけることでしょう。