人類は古来より現在に至るまで、衣食住生活のほとんどのシーンにおいて、用途に応じたさまざまな植物を加工し、利用してきました。今年度は轆轤(ロクロ)で加工した木器とその原料である樹木をとりあげ、近世から近代にかけて、原木を求めて移動生活を行った木地屋による挽き物原料としてのブナとブナ林の変遷について展示いたします。もともと椀や盆といった挽き物の材料には一般的にトチノキ、ブナ、ケヤキといった広葉樹が使われ、その多くは天然林から伐採されていました。なかでも奥山を中心に生育するブナはわが国の森林の広葉樹材の中では現存量が最も多い樹種です。漆器などの需要増加に伴ってブナの利用が増大し、森林資源が枯渇してくると、木地屋は新しい森林を探して移動しますが、ある一定の地域内で再生した林に100年程度の単位で回帰的な移動を繰り返した例も知られています。また、木地屋は移動を続けるばかりでなく、ブナ林の伐採地を利用して定着・帰農したり、スギやヒノキなどの林業に従事するなど様々でした。
本展示の統一的なテーマは、ブナ林の利用とその変遷ですが、轆轤製品(挽物)とそれに使用される樹種について、その特性に関する理解を深めるため、各地での実例をパネルを用いて紹介するほか、実物の材見本や製品を展示します。