一ノ戸ヨシノリ(1934年、北海道上砂川町生まれ)は、旭川在住の美術家です。北海道学芸大学旭川分校(現・北海道教育大学旭川校)に学んだ一ノ戸は、はやくから抽象絵画に取り組み、1970年代には鏡やさまざまな既製品などを使って、虚と実の往還のなかに社会批評のまなざしを浮かび上がらせたインスタレーションによって注目を集めました。1980年代以降は水やネオン管を使った作品を発表するとともに、屋外でのインスタレーションを展開し、人為と自然の親和関係が生み出す空間の美を探究してきました。
また、1992年からは常磐公園で毎年開催される「あさひかわ雪あかり」のプロヂューサーを努めてきました。こうした制作の歩みは、ネオ・ダダやライト・アート、アース・ワークといった国際的傾向と関連しており、北海道の美術界において先駆的な位置にあるといえます。
一ノ戸は、数々の美術運動に積極的に携わってきた美術家としても特筆されます。1955年には旭川の若手作家とともに「グループ黄土’(ODO)」を結成。以降、各種のグループ展に出品を重ねてきました。また、道内外の作家との連携による「アーティスト・ユニオン北海道シンポジウム」(1976)や、道内各地を結んで企画された「CIRCULATION’85」(1985)をはじめとした現代美術展の開催に、中心的な役割を果たしてきました。さらに、1980年代には海外作家との交流展を実現したグループ「TODAY」に参加するなど、道内における現代美術の動きをリードし、その地盤づくりに尽力してきました。
本展は、一ノ戸ヨシノリの造形世界を、初期から近代までの代表作によって紹介する始めての回顧展です。また、一ノ戸と関係が深く、同時代に活躍した村山隆一、菅原弘記、丹野信吾の作品も併せて展示することによって、旭川を拠点に一ノ戸が50年以上にわたって繰り広げてきた前衛的な生活の軌跡を浮彫りにします。