母屋からL字型に突き出した厩をもつ「曲屋」、厳しい冬の風雪に耐える「カッチョ」
(防風柵)、養蚕を営む人々の「かぶと造り」とよばれる多層民家―。
こうした様々な民家のかたちは、風土とともに生きる人々の、生活の知恵が生み出した造形だと
いえるでしょう。
失われゆく民家の姿を追いつづけた画家・向井潤吉(1901-1995)。
彼の作品は回顧趣味ではなくまた情緒的でもない、的確なリアリストの眼が描き出した絵画です。
そこには、古くから伝わる生活の“かたち”が克明に記録されています。
向井潤吉は、あくまで草葺屋根の民家を主眼としつつ、周囲の自然環境までを視野に入れた
作品づくりを進めていきました。
自然に抱かれるようにひっそりと佇む民家の風景からは、人々のつつましい暮らしの気配が
ひしひしと伝わってくるようです。
移りゆく時代の空気をつぶさに感じ続け、作品に描き残そうとしたのは、まさにあたたかい
生命が通った「生きている民家」の姿だったといえるでしょう。
本展を通じ、民家の「生きている」姿から、それぞれの風土の中で脈々と営まれてきた人々の
生活の息づかいを、読みとっていただけるでしょう。