このたび神奈川県立近代美術館は、鎌倉館にて「伊庭靖子展―まばゆさの在処」を開催いたします。
伊庭靖子(1967- )は、果物、プリン、クッション、器といった身近なものを自然光のもとで自ら撮影し、その写真のイメージを素材にして絵画へと転換する作業を続けています。新鮮な甘酸っぱさが口の中にまで広がってくるような果物、柔らかな布に触れているかのように感じるクッションやベッドリネン、あるいは透明のうわぐすりがかけられた艶やかな磁器など。それらひとつひとつの肌合いを感じさせる作品は、ただ物や写真を見るよりも、実感的に私たちの体の中に沁み込んでくるといってもいいかもしれません。それぞれの物質の微妙な質の違いを繊細この上ない感覚で捉えた伊庭の絵画は、人間の感性に独自の働きかけを引き起こします。
物のもつ質のわずかな差をどのように表現していくのか、そのひたむきな探求によって生まれた画面は、私たちの感覚をひろげ、普段は見過ごしている物が静かに纏うまばゆさに満ちた世界を気づかせ、見る者に驚きとともに、確かさや温かさを感じさせてくれます。
本展では、最新作と近年制作された作品を中心に絵画約40点を展覧いたします。この機会に、現在活躍中のもっとも注目されている画家のひとりである伊庭靖子の作品群をぜひ体感していただければ幸いと存じます。