太古の時代から、人間は自らの身体のメカニズムを探求し、また、その美を描くことを試みてきました。そして、その知識をもとに病気や怪我を克服し、死に抗い、長寿を保つ方法を模索してきました。医学の歴史は、まさにそのような人間の自己に対する科学的な探求と発見、そして試行錯誤と創意工夫の集積です。一方で人間は、みずからの姿を、理想の美を体現する場の一つと位置づけ、古くから美しい身体を描くことを試み続けてきました。
そのような意味で、身体とはまさに科学と芸術が出会い、またそこから二つの違う世界へ出発する結節点でもあったといえます。このような科学と芸術の総合を体現する業績を残した象徴的なクリエイターは、解剖図を残し、《モナリザ》を描いたレオナルド・ダ・ヴィンチではないでしょうか。今日、医学は科学・技術と手を取り合って発展し、その最前線ともいえる分子生物学や遺伝子工学は「生物とは何か」という問いに新たな光を当てようとしています。
本展は、近年の医学の状況を踏まえ、ロンドンのウエルカム財団から借用する約150 点の貴重な医学資料や美術作品に約30 点の現代美術作品を加えて、医学と芸術、科学と美を総合的なヴィジョンの中で捉え、人間の生と死の意味をもう一度問い直そうというユニークな試みです。また、日本初公開となる英国ロイヤルコレクション所蔵のダ・ヴィンチの解剖図3点も展示公開します。